最近、CSV(Creative Shared Value)という言葉を耳にするようになりました。「共有価値の創造」という概念。米国ハーバード大学のマイケル・ポーター教授の発案だそうです。
CSR(企業の社会的貢献)という概念を知ってから、もう10年が経ちました。日本の経営界ではどこまで一般化し、社会によい貢献ができたのでしょう? 欧米の企業に比べて低調なのではないでしょうか。「会社は、社会的存在である」との自覚をもち、「利益」と「社会還元」を共に重要視する企業だけが、CSRを持続的に実行しているのだろうと推測します。
しかし、こんどはCSVです
会社は企業活動において、地域の価値の創出を考えようという概念らしいのです。だとしたらCSRより一歩以上進んだ経営学といえそうです。注目されている理由もわかります。
経済学者黒瀬さんは、「中小企業でのCSV」の例をNHKラジオで紹介していました(ビジネス展望2014.07.10)。
①ひとつは、社員40名ほどの千葉県の不動産会社。この会社は自社のオフィスを地域に開放して、催しや会合の場に提供。活動場所のない地域の人びとの利便を図って地域住民に信頼され、喜ばれているという。つまり、地元に利用できる場所という「価値」を産み出した。一方、会社は地域の人びとと親密になり、生きた情報入手のメリット(価値)を得ている。共栄ですか。
②もうひとつの例は、埼玉県の男性のバス会社設立。この人は少年のころからバス運転手になりたいという夢を持っていた。2台のバス・料金170円で地域を巡るビジネスを始めた。住民に好評となり、この地域に移り住む人も増加。現在は路線バスの運行を始めているという。
いずれも、地域に役立とうという「理念」が事業に弾みをもたらしたのでしょう。両社の成功は地域に価値(バリュー、生活の質)を創り出し、その価値を住民と共有(シェア)することに拠っています。これがCSV(共有価値の創造)だというわけです。小規模ながら成功例です。
これは「ともいき」という日本の特質では
ふと気付いたのは、これは「持ちつ持たれつ」「お互いさま」という日本の生活観にある「知恵」ではないでしょうか。両社ともCSV論を知って始めた経営ではないでしょう。地域を愛する日本人の感覚で試したところ成功した、という例のように思えます。
私が参加しているNPO PTPLでは、日本社会の本質は3つあると考え訴求してきました。「ともいき」「ともうみ」「ともさち」です。「ともいき」は、「人と共に、自然と共に、地域と共に、祖先・子孫と共に支え合い、助け合って生きるという生活の価値観」です。
上記は、この「ともいき」の生活価値観と一致した実例のように思えます。また価値創造という点は、「ともうみ」(共に生み出す)という想像力・創造性に似ています。自分の利益だけで考えるのではなく、地域のニーズを倫理的に考えた企業活動です。その結果、地域の人びとも会社も、共に「幸せ」な状態になった。「ともさち」です。
私はこのCSVは、いわば「ともいき社会学」」「ともうみ経済学」「ともさち経営学」といえそうな概念であり、価値創造という新しい社会科学なのではないか、と感じたのです。日本にはこうした古くからの知恵があった。それを新感覚・クリエイティブに継承し発展させることが、いま日本に求められているように思われるのです。
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