失ってしまったら二度と取り戻せない貴重で美しい地域の自然景観を、その土地の暮しと共に保ちながら伝えようと発案した村や町の連合です。いま、1番目の北海道美瑛(びえい)町から54番目の熊本県球磨(くま)村まで、全国で54の地域が加盟しています。
「効率」を優先する市町村合併が進み、日本は各地の風土がもつ独特の景観や生活の在り方が失われつつあるようです。そんな中でこの連合は地域の暮しの歴史を尊重し、日本列島それぞれの地域がもつ美しさや味わいを共に保ち、語り伝えようと手を上げた住民たちの「和」であり「輪」であると思います。
お手本は「フランスの最も美しい村」
・ 「フランスの最も美しい村」(Les plus beaux villages de France)は、1982年に設立された協会で、その目的は次のようなものです。
・ 「質の良い遺産を多く持つ田舎の小さな村の観光を促進すること。協会ではブランドの信頼性と正当性を高めるために厳しい選考基準を設けている。協会の定めた基準は種々あるが要約すると次の3点。
・ 人口が2000人を超えないこと。
・ 最低2つの遺産・遺跡(景観、芸術、科学、歴史の面で)があり、土地利用計画で
保護のための政策が行われていること。
・コミューン議会で同意が得られていること。
従って景観を破壊するような建物や設備は制限される。このことで経済発展は妨げられるが観光の面ではプラスになる。また、認定後にも審査があり、資格が剥奪されることもある。2009年10月現在で151のコミューンと数千の会員を有している。
同じ主旨の協会は、ベルギーの「ワロン地域の最も美しい村」や、イタリアの「イタリアの最も美しい村」、カナダ・ケベック州の「ケベックの最も美しい村」などに広が
っている(以上、ウィキペディア要約)。」
そして、これをヒントに日本では2005年10月に7つの村でスタートしたのです。
2008年「フランスで最も美しい村」を訪問
私と妻は2008年6月に参加したフランス南西部へのツアーで、「フランスで最も美しい村」の幾つかを体験しました。すばらしい発想の制度と感銘し、「日本にも」と思いましが、すでに2005年にできていました。
最初に訪れたのは「天空のコルド」( Cordes-sur-Ciel)という村。面積8.27平方km。人口1000人足らずで、その名の通り小高い丘の上(標高320m)の村でした。起源は1222年にトゥールーズ伯爵による要塞建築。その後の変遷を経て、現在も中世の町並みを残す観光地となり、種々のアーチストが村民になっていました。ほかにコンク、カオール、ロカマドゥ—ルなどの村や小さな町。カトリックが暮しの中心であった中世からの時間を感じさせるような静かな雰囲気です。聖堂をはじめ、その地域ならではの歴史的建造物、産物の展示、古くからの店があり、異国の旅行者にも味わえました。
聖地巡礼路の拠点でもあった村たち
これらフランス南西部の村々の多くは、聖地サンディアゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼路にあって、宿場でもあったのです。しかも現在なお、欧州各地から市民や巡礼たちが、これら旧巡礼路を経て聖地に向かっています。日本でいえば四国八十八カ所のお遍路さんたちということでしょうか。
私たちは、オランダからの聖地巡礼を自転車でという中年のカップルに出会いました。小さな広場で休憩していたカップルと多少の言葉を交わし、EU市民の暮らしの一端を知りました。こんな出会いが旅の忘れがたい思い出となります。
ちなみにアムステルダムからパリ経由でトゥールーズまでの距離を地図で見ると、直線でも約1000キロメートル。自転車専用路はそれ以上の距離になるでしょう。さらにピレネー山脈を超えてサンディエゴまで走るというのです。夫妻は元気いっぱい、笑顔で語ってくれました。驚きです。
「フランスで最も美しい村」は「ともいき」の村
この制度は、私が参加しているNPOが呼びかけている「ともいき」の価値観によく似ています。「自然と共に、人と共に、祖先・子孫と共に、地域と共に、歴史と共に、支え合い、分ち合って」などで成り立っていると思えるからです。
「平成の大合併」の多くが効率化を目的として、「箱もの」づくりに巨額の金を投入。つくってはみたが利用が少なく維持費用がかさむばかり。となって、破綻の危機にある自治体が増えていると、いま問題になっています。国家的失敗であり、巨額の損失です。
それに対して「美しい村」はコンセプトが違う。むしろ大合併の逆です。前述の主旨がそれを語っています。環境保全と観光立国というフランス。地方の小さな村や町を、新発想で価値化しようという知恵がありました。これこそ「政治」ではないでしょうか。地域の歴史、文化、暮しの継承も行いながら環境客を招く。結果として経済的自立にも寄与するという見事な頭脳を感じます。
「美しい村」は小さい希望のようですが、その志と発想には大きな可能性が感じられるように思えるのです。私たちが学びたいのは、こうした人間的でクリエイティブな知恵ではないでしょうか。
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NPO「日本で最も美しい村」連合 http://www.utsukushii-mura.jp
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