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朝倉 勇
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朝倉 勇
 
 
 
 
 

伝える力 詩と音楽
2つの大災害を伝える2つの歌

2014.01.20

    人の記憶は薄れます。日々うち寄せてくる新しい情報の波を受け、つい大切なことも忘れがちになります。
  19年前の阪神淡路大震災の記憶は遠のき、3年前の東日本大地震・大津波と原子力発電所爆発の災害さえも、記憶は次第に薄れつつあるのが現実です。しかし、私たちは祈りだけでなく、災害に学ぶ知恵にめざめ語り伝え継承していかなくてはと思うのです。
    語り伝える力を発揮しているのは何か。いま、2つの曲を思います。3.11後に生まれた「花は咲く」と、19年前に神戸で生まれた合唱曲「しあわせ運べるように」です。「花は咲く」は復興ソングとして、NHKがまいにち番組の間などで歌声やメロディーを流しており、だれもが知っています。作詞は仙台市出身の映画監督岩井俊二さん、作曲も仙台市出身の菅野よう子さん。
  岩井さんは「震災で亡くなった方の目線でつくりました」と語り、萩野さんは「100年経ってこの曲がなんのために、どんなきっかけで出来た曲か忘れられて、詠み人知らずで残るといいなあと願って」いると。
  なお、この楽曲の印税は、全額がNHK厚生文化事業団を通じて被災地の自治体に義援金として寄付されているそうです。
  いっぽう「しあわせ運べるように」という曲を、ぼくは今年初めて知りました。作詞作曲は小学校音楽教師の臼井真さん。19年間、小学生たちによって歌い継がれてきたそうです。
    「花は咲く」の歌詞でもっとも心に響くのは「花は 花は 花は咲く/わたしは何を残しただろう」という一節です。胸ふかくに突き刺さるような問いかけです。前半は叙情的なふるさとへの思いが美しいメロディーに乗って、人びとをやや感傷的に共感させます。が、終わりになって「何を残したのか」との問いかけにハッとするのです。このひと言が人びとをとらえ、津波による災害に加えて、原発の大事故という理不尽な問題も考えさせる力になっていると思います。長く被災を語り継ぎ、鋭い問いかけの力をもつ歌だと思います。
 

  「しあわせ運べるように」は、こういう歌詞です。
1:地震にも 負けない 強い心をもって
   亡くなった方々のぶんも 毎日を
   大切に いきてゆこう
   傷ついた神戸を もとの姿にもどそう
   支えあう心と 明日への 希望を胸に
   響きわたれ ぼくたちの歌
   生まれ変わる 神戸のまちに 届けたい
   わたしたちの歌 しあわせ 運べるように

    この歌は、1995年1月17日の阪神淡路大震災から約2週間後に生まれ、強い信念で神戸の再生と市民の幸せをと呼びかけています。「亡くなった方々のぶんも」が重要なメッセージ。臼井さんは自らも住まいを失った被災者、また教育者としての実感と使命感から創ったのでしょう。小学生たちがこの曲を歌うとき、聴衆はどんなメッセージを受けとることか。歌の力は心にしみる力、そこから考えや知恵を生み出す力、行動をさそう力になるのでしょう。
  この曲は、新潟中越地震の際には被災地へ届けられ、その後は、英語、中国語、フランス語、ペルシャ語、トルコ語、イタリア語、カンボジア語、ハンガリー語にも訳されている由。地震被災地となった中国四川省、トルコ、イランなどの人びとにも伝えられ、心の連帯が生まれているといいます。
   
   被災者が肉声で体験を語るのは最上の伝達・継承です。ニュアンスも伝わります。しかし、その語り部が高齢となり、やがて亡くなられると、伝承は途絶えてしまいます。一方、歌は残り、メロディーに乗せて歌詞(意思)を語り伝えることができます。後世にも、諸外国にも思いが伝わります。
  歌になった詩の言葉は、メッセージとなって人と人をつないでいく。思いと共に、知恵を伝える力をもつメディアになるのではないでしょうか。
(2014年1月20日)
   
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