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朝倉 勇
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朝倉 勇
 
 
 
 
 

ベテラン記者の本気を読む!
2013.11.12

  女子高校生と外交官 きちんと向き合う大切さ」
   
    朝日新聞の『ザ・コラム』The columnに編集委員の大久保真紀さんが書いた文章(2013.09.01)に注目しました。見出しは「女子高校生と外交官 きちんと向き合う大切さ」。4人の女子高校生と初対面のフランス外交官との対話の報告です。多くを考えさせます。全文の転載ができないので、引用しつつご紹介します(カッコ内が引用原文)。
    18年前の1995年9月28日の夕方、大久保さんは東京南麻布にあるフランス大使館の前で、女子高校生が出てくるのを待っていました。彼女たちは、この年に再開したフランスの核実験に反対する署名活動を行い、約1千人の署名を携えて抗議するために大使館を訪れていたのです。
  約2時間後、ようやく大使館を出てきた4人の女子高2年生は、「ほおを紅潮させ、なぜかうれしそうだった」という。
  なぜでしょう。それはフランス大使館の1等書記官フィリップ・ルフォールさんの、丁寧で論理的な対応によるものであったらしい。いえ、それだけでなくルフォールさんの人間としての立派さに触れた体験が、ほおを紅潮させていたようです。
    ルフォールさんは、通訳を通して女子高生の抗議に耳を傾けたのです。「南太平洋での実験は環境に悪い影響があるのではないか、と質問する彼女らに、図を描きながら『影響はない』と説明。高校生が『環境に影響がないのならパリでやればいい』と食い下がると、『パリ近郊でできないのは、振動がひどいからだ』などと話した。」
  さらに彼女たちは、「核不拡散条約で他国に保有を禁ずる核兵器をなぜもつのか」「地球を何回も崩壊させる核兵器をもつのに、なぜ改めて実験するのか」などと追求したのに対して、「ルフォールさんも『日本は核の傘の下に入っている(最近核実験した)中国には抗議しないのか』などと応じた。議論は平行線だったが、ルフォールさんは目を見て話し、4人の意見も丁寧に聞いた。気付くと予定の30分を大幅に超えていた。
  『ちゃんと対応してくれたね』。彼女たちは興奮気味に経緯を話した」というのです。
    話を聞いて「感動した」大久保さんはその夜、職場に戻って長い原稿を書きます。それは、翌日の夕刊社会面に「『反核の声、聞いて』女子校生4人 2000人の署名携え訪問 仏大使館の門が開いた 2時間異例の対応」という記事になったのです。
 

  大久保さんのコラムはここで終りません。18年後の女子高生たちとルフォールさんまでも取材して報告しています。
  「この夏、4人の中のひとり、黒木麻衣子さん(34)が会いに来てくれた。現在は英国で国際関係学を研究する。『あれは私の人生を変えた出来事だった』と語った。」それは次のようなやりとりをルフォールさんと交わしていたからです。
  黒木さんは「生意気にもこう言った。『核の存在前は優秀な外交官が戦争を防ぐ唯一の手段だった。あなたのような外交官がたくさん出て、本当の平和が来るように祈る』
と。すると、ルフォールさんは『外交官になりなさい。あなたみたいな人がなれば日本の外交もおもしろくなる』と握手してきた。
  未熟な高校生の話をまともに聞いてくれたことに、黒木さんは心を動かされた。国際政治に関わりたいとの思いが生まれた」。黒木さんは上智大学大学院で国際関係論を学び、国際政治学者を目指して現在英国で国際関係学を研究しているというのです。

    「もうひとり、中田祐恵(さちえ)さん(35)は大学卒業後、共同通信の記者になった。当時は環境問題として核実験をとらえていたが、入社後に広島支局に勤務。被爆者の話を聞き、キノコ雲の下で起きた悲惨な現実を考えるようになった。さらに、福島第一原発の事故もあった。いまは宮内庁担当だが、『核兵器も放射能被害も含め核の問題にずっと関わっていきたいと思っている』。
  あとの2人には連絡が取れなかった。」
   
    さらに大久保さんは、ルフォールさんの現在も調べます。「欧州連合で南カフカス地域及びグルジア危機担当特別代表を務めていた。メールを送ると、丁寧な返事が届いた。『私はいま56歳。18年前の彼女たちの訪問はよく覚えている。4人は聡明で、正直で、誠実だった』」と。そして誠実な対応については、次のような考えであったと大久保さんは書いています。
  「多くの国から批判された核実験だったからこそ、批判を無視するのではなく、議論し、人々の考えを聞くことが必要と、高校生の黒木さんらに会ったという」。
  しかし新聞に記事が載ると、「4人は先生に『国立の高校ということを考えているのか』と怒られたらしい。意見は違っても、真摯に真剣にルフォールさんが議論してくれたことが、彼女たちのその後に大きな影響を与えた」と大久保さんは述べます。
  そして、漫画『はだしのゲン』をめぐる松江市教育委員会の閲覧制限と、その後の撤回には、こうコメントします。「手続きの不備を理由にしているが、事の本質には触れていない。閲覧制限も『暴力描写が過激』としてとらえた措置だった。いずれも事なかれ主義と私には見える。(中略)起きていることを子どもにきちんと伝え、議論することが日本人は苦手だ。高校生とフォールさんの『あの日の出来事』は、大人が若い人にきちんと向き合うことの大切さを教えてくれる。」と、締めくくるのです。
   
 
☆    ☆    ☆    ☆
 
  大久保さんの「女子高生と外交官」の一文は多くの事を考えさせます。
① 女子高校生の正義感と勇気、そして行動力。国立学校の考えと先生の立場。
② 目を見て語り合うこと。相互理解の大切さ。コミュニケーションが人間同士の信頼を生むこと。
③ フランス人外交官と女子高校生の間に生まれた納得と敬意。すがすがしさ。
④ フランス外交官の大人としての良識と誠実さ。2時間に及ぶ対話、忍耐。
⑤ 日本の外交官はどのように対応するだろうか、という不安。
⑥ 誠実な大人が若者に及ぼす影響の大きさ。これこそ立派な教育。
⑦ ひとつの出来事を、それ以後にまで関心をもち続けて報道するジャーナリストの問題意識の立派さ。大人が果たすべき「知恵の継承」という大事な行為と思われる。
   
  ◎ 多忙な現代。情報は絶え間なく生まれ消えていきます。大事なことも土石流のように流れ去り、心をとめて聞き読み、事の本質を考えることがおろそかになっていると思います。そうしたなかで、現役ジャーナリストのこの発言の意義は大きいと思うのです。メディアの本分でもあるでしょう
   
  ◎ この記事は、そのまま「人間を学ぶ」教科書の教材ともいえそうです。女子高校生4人ののうちの2人は、ルフォールさんとの出会いによって人生の進路を明確に見出し、それに邁進しています。それは、2人がフランス外交官の人間性に触れて、希望を感じたからではないでしょうか。
   
  ◎ 大久保記者の報告を読みながら、私はある言葉を思い出しました。
『教えるとは希望を語ること、学ぶとは真実を胸に刻むこと。』というフランスの詩人ルイ・アラゴン氏の言葉です。美しい言葉です。
  アラゴン氏もルフォールさんもフランス人。フランスの高校生が受ける卒業試験「バカロレア」では、一人の学生に複数の審査員が当たり、哲学を論じると聞きました。哲学を語ることのできる若者が難関に合格し、さらに高等教育を受ける。そういう教養ある人材が、国を動かしていく。ちょっと羨望を覚えます。
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